「精神世界の鉄人」 エッセイ集

タイトル 発行月日
マスター 2 コンパ 7/21/2001

宮城先生は、その当時(1990年)、37歳でした。でも、とても大人に見えました。45歳ぐらいに感じました。

先生の講義は、型破りの講義でした。

ある意味では、全く、大学の講義らしくない講義でした。しかし、逆にそれが私には、とても新鮮でした。おそらく、わざと私達の「既成概念」を一度崩すことを、目的にした授業だったのではないかと、今は思います。

最初の頃の講義は、まるで漫才を聴いているようでした。世界中をたくさん、自分の足で歩いた先生の体験談は最高で、皆、ゲラゲラ笑い転げていました。話術の天才でもありました。

授業内容は、バラエティに富み、「ナンパの仕方」や、「ディスコ(クラブ)での踊り方」や「同性愛について」、「ニュース番組について」など、ほんとうにいろいろでした。楽しませてもらいました。

学期末試験の時、先生が一度、

「私のテストは、試験勉強したぐらいで解けるような、甘い問題ではありませんよ。覚悟していてください。」

と言ったので、一応、「ダーウィン進化論」や「比較文化論」、「形質人類学」、「食文化」などの書籍を、図書館で読んでのぞんだら、

「私、宮城は、身長163センチ、体重94キロです。でも自分では、太っているとは、思っていません。さて、どうしてでしょう?」

という問題が試験の問題として、出題され、

「このオッサン、いいかげんにしろよ!」

と、皆カンカンに怒り、呆れたこともありました。(苦笑)

とにかく、型破りな講義でした。

ちなみに、その試験の解答は、

「何にも考えていないから」

でした。本当にふざけていました。(笑)

先生の話は、小学生でもわかるような、やさしい言葉で、全て語られていました。

しかし、その哲学は、とてつもなく深く、毎回ビックリさせられました。あたりまえのことを、あたりまえに語っているだけなのですが、それが、とても新鮮でした。つまり、そういうあたりまえのことを新鮮だと感じるぐらい、現代の人々は、「あたりまえのことが、わからなくなっている」ということです。

私は、当時23歳だったのですが、けっこうな読書家で、いろいろ豊富な知識をもっていました。特に思想関係、哲学、心理学、精神医学、宗教などは、ちょとしたもので、友人達はもちろん、学者、教授などの知識人という人たちと、議論などをしても、なぜか、めったに負けませんでした。今考えると、ただ、「屁理屈」をこねまわすのが、うまかっただけだと思いますが…。

とにかく、「学問なんて、社会にでても、ほとんど役に立たない。大切なのは、実際に汗を流して得た体験だけだ。」と堅く信じていました。

「インテリなんて、ただの頭でっかちだ。」

と完全に、ナメてかかっていました。(苦笑)

ところが、宮城先生の授業を聴いていて、それが完全な間違いであることが、だんだんわかってきました。

「チクショウー。なんて素晴らしい哲学なんだ。どうやったら、こんな素晴らしい発想や考え方ができるんだ? どうなっているんだ、この先生は? これじゃあ、自分が、独学で学んできた哲学は、完全に幼稚園のママゴトのレベルじゃないか。世の中には、なんて凄い男がいるんだ!」

こう思って、講義の最中に、涙を流したことがありました。自分の未熟さと思い上がり、そして、本物の学問というものに触れた喜び、世の中というものの奥の深さを知ったことへの驚きの涙でした。

どの世界でも、やはり「本物」というものは、人に感動を与えるもののようです。

しかし、受講していた学生は、当時100人ぐらいいたのですが、全員がそう思っていたわけではなく、何人かの友人達は、

「この講義、馬鹿馬鹿しくって、受けてられないよ。大学の講義じゃないよ。学問じゃないよ、あの先生の話は!」

こう言って、講義に来なくなった人もいました。やはり、話も、波長が合わない人にとっては、ただの「つまらない話」になってしまうようでした。

ある時、先生が、こう言いました。

「私の講義は、必ずコンパをすることにしています。全員出席を、強制します。これは義務です。来なかった生徒には、単位はあげません。」

初めて聞く、「教師による強制コンパ」でした。

疑問に思いながらも、当日の夜、大学の近くの「居酒屋」に行きました。先生をはじめ、全員集まっていました。

私は、どうしてもこの「強制」という言葉が気になったので、先生に質問しました。

「先生、このコンパの本当の目的は何ですか? どうして強制してまで、コンパなんかやる必要があるのですか? どういうことですか、これは?」

すると、先生は、やさしく微笑みながら、こう答えました。

「トーマ君、いい質問だ。君は、学生が、講義に来なくなる本当の理由が何か、わかりますか?」

こう聞くので、

「わかりません。授業が面白くない。もしくは、授業についていけない、ではないでしょうか?」

こう答えると、先生は首を横に振って、

「違います。それもあるのですが、一番の理由は、来なくなる生徒は、その講義のクラスに、友達がいないというのが、一番の理由です。そういう生徒は、最初は、後ろの席に座るようになります。そして、遅刻をしはじめます。それから欠席しがちになり、そのうち講義に来なくなります。私は、そういう生徒のために、このコンパをつうじて、なんとか友達をつくってもらいたくて、それで、全員出席にしたのです。私は、こういうことが、実は、一番大切なことだと思っています。」

こう言いました。

「なんて、高いところから、教育問題を考えている先生だろう!」

こう思って、感動しました。本当の「やさしさ」をもった人物でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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