「精神世界の鉄人」 エッセイ集

タイトル 発行月日
マスター 3 沖縄 7/23/2001

今月に入って、いつものように、ロサンゼルスのダウンタウンにあるジムで、固定式バイクをこいでいると、TVでニュースをやっていました。

画面に、「OKINAWA」の文字が出てきたので、「何だろう?」と思っていると、また、「米軍兵士による、沖縄女性のレイプ事件」でした。

アメリカでは、よっぽど重要な事件でないかぎり、日本の事件などニュースでやりません。日本人が思っているほど、アメリカ人は、日本に関心はないようです。しかし、逆に、アメリカのニュースでとりあげるということは、アメリカ人が、重要な問題だと思っているということです。

このニュースを見ていて、「宮城先生」が、’90年に授業中に話したことが、また脳裏に蘇ってきました。

宮城先生は、’80年代に、アメリカのハーバード大学、エール大学、コロンビア大学、UCLAなどの超一流の大学から招待され、講演して回ったという、本当の超一流の人類学者でした。その当時、主に「人種差別問題」について、講演していたそうです。

沖縄に帰ってきて、私と知り合ったのは偶然で、なんでもお父さんの看病のために、沖縄の実家に帰らなくてはいけなくなったからというのが、理由だったそうです。

先生の授業は、視聴覚教室で、ビデオを見て、その後、先生がその解説をするというのが、ほとんどのパターンでした。いろいろ貴重なビデオを持っていました。そして、メインテーマは、「日米の文化比較」でした。特に、このテーマが、先生の得意分野のようでした。

ある日の授業で、先生は私達に、「戦前、アメリカで放映された、日本の記録フィルム」を見せてくれました。

太平洋戦争の前後に、アメリカ人が、日本に来て、日本の文化を撮影した映像でした。当時、アメリカ人が皆、TVで見ていた映像です。

その映像には、最初、日本女性が着物を着て、野球をやっている姿が、映っていました。戦争の前でした。アナウンスもわりと好意的で、「日本人も、ベースボールが好きなようです。女性まで、このゲームに夢中です。」などと話していました。

ところが、真珠湾が攻撃され、反日感情が盛んになった頃の、映像はひどいものでした。

日本人の表現が、「Japanese」だったのが、だんだん、「Jap(軽蔑の意の表現)」になり、「Monkey(猿)」などの馬鹿にした表現に変わっていました。

挙句の果てに、「ポパイ」のアニメーションで、「悪者」にされ、「卑怯」で「意地悪」で「嘘つき」の民族として、「ポパイ」にやっつけられる映像もありました。

しかし、私達にとって、その映像は、「面白い」という表現以外のなにものでもありませんでした。私も含めて、皆、ゲラゲラ笑っていました。

映像が終わり、宮城先生が、TVのスイッチを消して、私達の前に、立ちました。そして、いつもと違う、厳しい目で、私達をにらみました。そして、

「あなた達今、映像を見て、笑っていましたね? どうして、そんなにおかしいのですか? 日本人が馬鹿にされているのに、なぜ笑えるか、わかりますか?」

こう静かに聞いてきました。私達は、だれもわかりませんでした。すると、

「日本の経済力は、世界でも現在、トップクラスです。豊かな国に、あなた方は、住んでいるのです。だから、気持ちに余裕があるのです。だから、そうやって笑えるのです。わかりますか? でも、でもですよ、もし今の映像を、その当時の貧しい日本人が、アメリカで見せられたら、たまったものではないと、思いませんか? 戦争で負けて、貧しく落ち込んでいる時に、こんな日本を馬鹿にしたTVなんか見たら、たまらんですよ!」

こう言いました。「確かにそうだなー」と思いました。先生は、厳しい口調で、

「今、当時のアメリカのTV番組と全く同じことを、日本のTV番組はやっているんだー! バラエティやクイズ番組で、さんざんアジアやアフリカなどの貧しい国の食文化などを、馬鹿にした番組ばかり作成して、皆で馬鹿にして、楽しんでいるんだー!」

こう言いました。ショックでした。確かに、私は、その当時、そういう番組をみて、漫才師などが、貧しい国の文化を茶化したり、馬鹿にしたコメントを聞いて、よく笑っていたものでした。その時、いかに自分が残酷なことを平気で、やっていたかに気が付きました。

それから先生は、静かに付け加えました。

「皆さんは、沖縄に生まれて、よかったですねー。ご存知のように、沖縄は、戦後、米軍の支配が続き、私達は、ずいぶん理不尽な扱いを受けてきています。しかし、皆さん、これは、かけがえのない財産なのです。なぜなら、この経験のおかげで、沖縄の人たちは、他の発展途上国の人たちと、同じ視点から、物事を考えられるからです。つまり、外国人がいきなりやってきて、自分達の土地を支配し、デカイ顔をされたら、どういう気持ちになるか、そういうことが、よーくわかったのではないですか? この経験を生かして、貧しい国と先進国の間の、掛け橋になれるのですよ、沖縄は。」

こう言いました。また、

「アジアなどに行くと、よく日本人が、現地の人々に、エラソーにしている場面を、私はよく見ました。これは、日本人が、外国に支配され、いじめられた経験があまりないことから、起きているのです。沖縄の人たちの、今までの悔しさ、憤りをぜひ、これから世界平和に利用してください。経済力や政治力などの強さ、そして弱者の立場からの視点をもったやさしさ、この二つをもっているのが、沖縄なのですよ。」

こう諭すように語って、その日の講義は、終わりました。

「いじめられ、虐げられ、馬鹿にされた経験」こそ、人間の一番の「財産」だという考え方は、あたりまえのことですが、先生の口から語られると、新鮮でした。そして、それを利用して、「世界」に貢献することができるという考え方は、驚きでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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