「精神世界の鉄人」 エッセイ集

タイトル 発行月日
マスター 6 努力 7/27/2001

前回の「バシャール・シリーズ」では、私は、「現実を超える哲学」というコンセプトで、文章を書いていました。今回の「マスター・シリーズ」は、「現実を直視する哲学」というイメージで書いています。前回が「光」としたら、今回は「闇」かもしれません。ですから、今回は、すこし「ネガティブな問題」にも触れます。また、矛盾することを、言うかも知れませんが、視点が違うだけで、根本的に言いたいことは、前回と同じです。

私自身は、「現実からなるべく離れ、空想の世界で遊ぶのが好き」という人間なのですが、宮城先生は逆で、「徹底的に、現実を見据え、それに正面から、ぶつかり、乗り越えていく」という人間でした。本当の「現実主義者」でした。

仏教では、この二つの修行法を、それぞれ、前者を「出家」、後者を「在家」というふうに、呼んでいるようです。両方大切だと思います。

宮城先生は、私が知っているかぎり、どんな「精神世界」関係の人よりも、「精神世界」というものを深く知っていました。本当に「究極を極めた」という感じの人物でした。しかし、面白いことに、絶対に、「精神世界」の話をしてくれませんでした。必ず、「現実社会」というものを通して、私達に、「精神世界」の目を開かせようとしていました。

先日、LAの「リトル東京」の、いつもの喫茶店に行くと、友人のウエイターが、

「トーマさん、東京は、記録的な暑さで、摂氏40度だそうですよ! 大変で、皆、耐えられないと言っているみたいですよ。」

そう話してきました。その話を聞いて、また、宮城先生の講義を思い出しました。先生の思想は、私の魂に、もうしっかり根付いているようです。(笑)

ある日の講義のテーマは、「努力」についてでした。

先生が、昔、バングラディシュに行った時のことを、話してくれました。その国で、ある日本の企業のビルの中で、一人の日本人ビジネスマンと、話をしていたそうです。その時に、そのビジネスマンが、ビルの中のオフィスから下にいる、バングラディシュの人たちを見下ろしながら、

「宮城先生、見てくださいよ、あの連中のだらしない仕事ぶりを、最低ですよ。ダラダラしやがって、だからこの国の経済は、いつまでたっても向上しないんだ!彼らは、努力が足りないんだ! 私は、ああいう向上心のない人間を見ると、イライラしてくるんだ!」

こう言ったそうです。先生も、ビルから見下ろして、その光景を眺めると、確かに、ダラダラしていて、やる気のない仕事の仕方を、その現地の人たちは、やっていたそうです。それで、その時は、「もっともな意見だ、そのとおりだ」と思ったそうです。

ところが、いざ、ビルの外に出てみて、ビックリしたそうです。暑いのなんのて、気温が、摂氏50度だったそうです。

「こんな気温の中で、努力なんか、できるかー!」

思わずそう叫んだそうです。そして、自分達が、エアコンのきいた、摂氏25度の快適なオフィスの中から、現地の人たちを、馬鹿にしていたことに気がついたそうです。

その話を、ユーモアを交えて話したあと、先生は、私達生徒に、言いました。

「皆さん、努力が全てだと思っているうちは、この世の中のことは、何にもわかりませんよ。世界は広いのです。そして、努力などできない。または、どんなに努力しても、それが報われることがない。そういう環境で生活している人間の方が、地球上には、多いのです。いいですかー、皆さんは、先進国である日本という、努力ができて、そして、それが報われる国で、生きているから、努力が素晴らしいことだと、考えるのですよ。」

こう話しました。「努力は、報われない」というのが、世界の常識だと言っていました。でも、話し終わったあとに、小さい声で、こうつぶやきました。

「でも、でも、やっぱり、努力なんだ…。」

この言葉には、本当の「現実主義者」の哲学がこもっていると、私は感じました。先生は、世界の「闇」の部分を、しっかり見ていたのです。

日本、アメリカなどの先進国では、昔も今も、「成功哲学」や「願望実現法」などが、書籍やセミナーなどで、華やかに紹介されています。

私自身も、もう大好きで、ほとんどの書籍は、読破しましたし、セミナーもたくさん受講しました。知識も経験も、豊富にもっています。

しかし、こういう話をする時は、必ず、こう付け加えます。

「私は、個人的に、こういう考え方を信じていますし、実際に自分なりに成功してきました。でも他の人に当てはまるかどうかは、分かりません。」

世の中には、こういう考え方が、当てはまらない人たち、環境、状況というのが、たくさんあるのです。

「ポジティブ・シンキング」や「ワクワク」なども、戦争中の国や、飢餓で苦しんでいる国の人たちには、通用しません。それどころか、文字も読めない人たちもたくさんいます。これらのことを、しっかりと把握したうえで、こうした考え方を実践しないと、薄っぺらなものになってしまうような気がします。

「願望実現法」などは、究めて少数の人だけに、当てはまる哲学かも知れません。日本人には、当てはまると思います。ただ、その場合も、例えば、アメリカのやり方であれば、その背景も、考慮しなければいけません。日本とアメリカでは、経済構造、人種、歴史、宗教なども、完全に違うのです。

2年前に、アメリカの大学に入学したばかりの頃、授業についていけなく、苦しんだことがありました。経験した人は分かると思うのですが、アメリカの大学は、宿題も多く、本当に大変なのです。

その時、苦しんでいる原因を、瞑想して、自分の心の中で、探っていると、「周りの人たちと競争し、比較している」ということに気がつきました。

学校教育の中では、生徒の評価をするやり方が、二通りあるそうです。一つは、本人と周りを比較する「相対評価」、もう一つは、周りは関係なく、本人の努力だけを評価する「絶対評価」です。

自分と周りを比較し、競争しているうちは、苦しいと思います。私は、その時、昔、日本で、「パワーリフティング」をやっていた時のことを、思い出しました。

全国大会の場合、47の都道府県から、選手が集まることになります。これで、「日本チャンピオン」になろうと思うと、競争率は、47倍です。そう考えると、しんどくなります。もう一つの考え方として、例えば、確実に優勝できる記録が、200キロという重さであれば、周りの選手に関係なく、この200キロという重さを挙げれば、同じく「日本チャンピオン」になれるのです。この「絶対評価」に基づいた、考え方の方が、気分的に、本当に楽です。毎日、1キロづつ、努力して、記録を伸ばすことだけ、考えていればいいからです。自分と、この200キロの重さとだけの競争なのです。実際に、私は、その考え方で、優勝できたのです。

アメリカの大学で、苦しんでいた頃、それを思い出し、

「自分は自分、周りは関係ない。一日に、英単語、一つ覚えるだけでいいんだ。それでも、1年で、365、10年では、3650以上になる。これでいいんだ!」

こう思い、勉強しました。すると本当に楽になり、かえって、試験の点数も上がりました。考えてみると、英語なんて、他の言語圏の外国人のほうが、文法も発音も英語に近いから、絶対有利なのです。それを、完全に忘れて、なんとか周りに負けまいと頑なになっている自分がいました。

「周りは、関係ない。自分と競争する。自分なりに少しづつ努力を積み重ねる。ほんとうに、小さな努力でいい。」

この「絶対評価」が、楽に、幸せに生き、そしてもしかしたら、成功するかもしれない、本当の「成功哲学」、「願望実現法」かもしれません。

自分なりに努力してみませんか?

 

また、次回に続きます。

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